青山学院大学が2年ぶり5度目の総合優勝を決めて幕を閉じた第96回箱根駅伝。前評判の高かった前回優勝の東海大学が破れたり、創価大学が初めてシード権を獲得するなど様々な話題がありましたが、何といっても注目を集めたのがレースの高速化です。優勝した青山学院大学は大会記録を何と6分46秒も更新。2位の東海大学も総合タイムを更新しました。選手個人のレベルアップが顕著だったのはもちろん、比較的、温かったという気象条件の影響なども背景として考えられますが、最大の要因は、ナイキ社製の厚底シューズを履いていたことです。今年の大会では、出場した210選手中、約85%にあたる178選手がこのシューズを着用。その結果、区間賞10人中、9人が着用していたという事態になったのです。
そこで今回は、このナイキの厚底シューズについて紹介していきます。興味がある人は参考にしてみてください。
今年の大会で注目を集めたナイキの厚底シューズですが、元々、使用している選手が多かったのでは?と思う人もいるかもしれません。そこで、2019年大会と今回のメーカーごとの内訳を見てみましょう。
まず2019年ですが、ナイキのシューズを履いていた選手は95人。この他は、アシックスが51人、ミズノが24人、アディダスが39人、ニューバランスが21人でした。これに比べて、今年の大会では、177人の選手がナイキのシューズを着用。以下、ミズノ9人、ニューバランス9人、アディダス7人、アシックス7人、デサント1人となっており、約84%の選手がナイキのシューズを履いていたことになります。その結果、区間賞を獲得した10人中、9人がナイキのシューズを使っていたという驚きの結果になりました。さらに10区間のうち7区間で区間新記録が誕生するという前代未聞のスピードレースとなったのです。
今回、注目を集めたナイキ製シューズの名前は、ズームヴェイパーフライネクスト。物理と解剖の観点からランニングフォームを分析して作られたシューズです。特徴は何といっても厚底であること。これは、マラソンのトップランナーたちが「クッショニングを重視した、脚への負担が少ないシューズが欲しい」という要望を受けたのがきっかけだったそうです。ナイキでは、軽さとクッション性の両方を追求した結果、ミッドソールの部分に航空宇宙産業で使う特殊素材に由来するフォーム(ズームX)を採用。また推進力をアップさせるため、特殊素材の間に反発力のあるスプーン状のカーボンプレートを挟み込みました。これにより、前足部分で着地するとカーボンプレートが屈曲し、それが元に戻ろうとする反動によって足を前に押し進める結果に。選手たちからは「簡単に言うと、シューズが勝手に走ってくれているという感覚」という声が聞かれました。
青山学院大学と言えば、「アディダススクール」と呼ばれるほどアディダス色が強いことで有名。ウェアなどのサポートをアディダスから受けていました。お互いがお互いを様々な場面でプロモーションするなど、「青山学院大学と言えばアディダス」というイメージが関係者の中では植え付けられていました。ところがふたを開けてみると青山学院大学の選手は、全員がズームヴェイパーフライネクストを着用。アディダスのようにサポートを受けているということは考えにくく、選手たちはみんな、自分たちでお金を払って購入したのだと思われます。そこまでしてでも勝つためにズームヴェイパーフライネクストを履きたかったというのも、今回の結果を見れば納得です。
新記録更新ラッシュは、箱根駅伝に限ったことではありません。2019年10月にマラソンの世界記録保持者であるエリウド・キプチョゲ選手が1時間59分40秒22という驚異的な記録をたたき出したのですが、この時に履いていたシューズもナイキの厚底シューズ。そのキプチョゲ選手と一緒に走ったペースメーカーも全員、履いていました。
以前、競泳界で新記録が続々と誕生したことで話題になった新素材の水着「レーザーレーサー」も着用するだけで簡単に記録が更新されてしまうという理由から禁止となってしまいました。ナイキのズームヴェイパーフライネクストにも同じような批判の声が聞かれ、中には廃止を検討しているという話も聞かれるほどです。来年の箱根駅伝までにどのような対応がされるのかも注目したいポイントとなります。
いかがだったでしょうか?ナイキのズームヴェイパーフライネクストは、普通に市販もされているため、私たちでも気軽に購入することができます。価格は約3万円でランニングシューズとしては割高ですが、履くとどのような感覚なのか試してみたくなるもの。レースでの使用が禁止となって販売が停止となるという最悪の事態に備えて、興味がある人は今のうちに買っておくのも良いかもしれませんね。